40代の方々は古市さんの主張をガチで理解できていないのではないか

年明けから毎日新聞朝刊で「リアル30’s」という連載がスタートしている。趣旨としては

「失われた20年」に青春期を過ごした世代が今、30代を迎えている。仕事、結婚と岐路に立たされる年齢だが、社会は閉塞(へいそく)感に覆われ、どんどん生きづらくなっている。誰のために、何のために働き、生きるのか−−懸命に考え、悩み、迷う30’sを追う。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20111231mog00m100009000c.html


ということらしい。なーんだまたロスジェネ話かと一瞬食傷気味にもなったけれど、一読したところ、取り上げるターゲットは“社会人として働くポストバブル世代”全般にわたっているので実際には20代後半の人々も含まれている模様。


話のベースになっているネタは明らかに古市憲寿さんの『絶望の国の幸福な若者たち』。
一応、古市さんの主張から記者さんがインスパイアされた面をかいつまんで説明おくと、
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ここ10年程で社会に出てきた世代っていうのは、物心ついた頃から景気が悪い景気が悪いとやたら喧伝されていて、父ちゃん母ちゃんの世代の表情はどこか陰りがあって、みたいな状態からデフォになってるわけだけど、そいつらのライフスタイルは、どーもそれまでの「若手社会人」のソレとは様相が異なるらしい、と。
ブランド品買い漁ったり高級レストラン()でディナーをキメたり外車乗り回したり、なーんてことはせずに、「週末は友人宅で鍋」をして、「買い物は郊外のイオンモールコストコなど」で済ませ、「オンゲやSNSでの交流に盛り上がり「外交的」でない」暮らし方をしていて、しかもそれで結構満足しているらしい。
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てなところでしょーか。


07年頃の「草食系男子」以来着々と外堀が埋め続けられてきたこともあり、最近このテの言説(=いや、今の暮らしケッコー楽しいっスよ、的な)がやたら目に付くようになっているのだけれど、僕は当初、(古市さんも含めて)その主張の意味が分からなかった。



理解ができないとか実態に即してないとかって言いたいんじゃなくて、「何を当たり前なことをこの人は言うてるんだ」って思ったから。



つまり、僕にしてみれば、「週末は友人宅で鍋」をして、「買い物は郊外のイオンモールコストコなど」で済ませ、「オンゲやSNSでの交流に盛り上がり「外交的」でない」暮らしはあまりにも当たり前すぎて、今更語るほどのことだとは到底思っていなかったからだ。
付け加えて言うならば、“ブランド品買い漁ったり高級レストラン()でディナーをキメたり外車乗り回したり”なんて振る舞いは当たり前のようにダサいものだと思っていたので、そんな価値観にコミットする人間がいる、あるいはそうした「風習」が諸般の経済的事情により実現しにくくなっていることを残念に思っている人がいるだなんて、思いもしなかったから。


“自明性くずし”を日課とする「社会学者」が書かはる文章ということで、
1)「若手社会人っていうものはこういう暮らしをしているもので、それが実現しにくい現在は昔に比べて生きづらかろう」とか思っちゃってるバブル世代の価値観を崩していく
2)とりあえず自分プラスマイナス10年世代を対象に、認識枠組みとしての言説を供給する
なーんてあたりの効能がこの文章にはあることはまあまあ想像がつく。


ところが、活字に起こされた内容の裏を考えれば、「えっ、バブル世代って、今の僕たちの暮らしを“カワイソー”とか思っちゃってるの?」と、逆に僕(たち)のライフスタイルの自明性が崩されたような気持ちを抱いてしまった*1


そしてその気持ちは、「絶望本」出版以降に流通しはじめた「オジサマ記者が若者を取材する」テの記事を読むにつれ徐々に確信めいたものになっていく。



記者さん、マジで価値観理解できてないんじゃなかろーか。



それは“「新進気鋭」を目にしたらとりあえず取材する側は戸惑っているor無知アッピールをしなければならない”という、モノ書きにおける一種の定型表現なのかもしれないけれど、それ以外に記者さんの文章を好意的に解釈する術がないくらい、取材記者の文章から困惑がにじみ出ていることが、多いように思えるのだ。


「〜などという新しい価値観を持つ若者たち」という小見出し、「その暮らしの不安定さで、将来は不安じゃないのかな?」という合いの手、「でも、やっぱりブランド品、欲しいとか思わない?」という問い直しetc.


なぜそのような価値観を持つに至ったのか、なんてことは聞けないから*2、記者さんの言葉には「その価値観、本当にそれでいいのかな」と問い直すかたちの聞き方がすごく目につくんですよ。同じ価値観を共有する相手なら、そんな質問はなされずに「なんで僕たちこうなっちゃったんだろーね(笑)」とか「他の世代と比べて自分たちの振る舞いをどう思う?」のように、聞く側と聞かれる側の地平はもっと近いものになっているよーな気がする。


TBSラジオ文化系トークラジオLife」の第1回、テーマが「バブル」だったのだけれど、そこに街の声として登場したバブル全開のオッサン*3、あれはネタか演劇だと思ってたけど、ガチだったのかと思うとニッポンの40代おぞましい。

追記(2012.1.9)

こんなチラ裏エントリにもかかわらず、思ってもみなかった反響があり大変恐縮しています。。。
自分で言うのもなんですけど、この文章、頭でっかちでオチも弱い文構成だし、何より論がすげー粗雑ですよね。
それでも反響をいただけたのは、話に通底するアイデアに共感いただけたからだと思うんだけど、もちっと人に読まれることを前提に、丁寧な論展開を心がけたほうがいいのかもしれないなーなんて反省しきり。。。

色々修正したい点は多い黒歴史エントリですけど、1つだけ補足。
毎日新聞の「リアル30’s」、僕のざくっとした紹介*4よりずっと広範なことを扱ってます。連載途中だったんであんな紹介しちゃったけど、その後の連載展開を見てかなり反省……下にURL貼っとくんで、ぜひ記事に目を通していただければ。

毎日新聞−リアル30’s
URL: http://mainichi.jp/photo/news/20111231mog00m100009000c.html
twitter: http://twitter.com/#!/real30s

*1:それも実は狙いなのかもしれない。疲れるのであまり「エア古市さん」の詮索はしないけど

*2:「持ってしまった/抱いてしまった」人を対象にしているがゆえの構造的悲劇

*3:「あの時代を経験できなかったヤツは不幸」「俺はもう一度バブル来いって思ってるよ、また波つかんでやる自信もあるし」などという旨の意味不明な供述をしていた

*4:古市さんの絶望本にインスパイアされてるんちゃうかー、というアレ